さて、前回の話の続きの話をしよう。
僕が映画監督Xさんのワークショップに参加したのは、2017年4月15日、16日の2日間だった。
ワークショップへ参加することが僕にとっては人生初体験だったのでとても印象深いし、ワークショップ終了の翌日は僕の誕生日だったのでよく覚えている。
僕自身も監督なのに別の監督、しかも年下の若手監督のワークショップに参加することが奇妙だと思う人が中にはいるかもしれない。しかも今回は、役者としての参加なので『どうなってんだ?変じゃないの?』と、あなたは感じるだろうか?
少なくとも、僕はそうは思わない。
自分の立場がどういう立場だろうが、どういう職業や経歴であろうが、また男だろうが女だろうが、あなたの年齢や相手の年齢がいくつだろうが関係ない。
これは面白そうだ!是非ともやってみたい!
と心が動かされるのなら、何にでも挑戦すればいいと思う。
僕の思考は、いつも超シンプルだ。
ただ、ほとんどの人は『常識的な人』なのでチャレンジしようともしない。特に日本人はそういう傾向が強いと思う。
年齢や経歴、立場にふさわしい判断をし、社会の常識や規範から逸脱すること、恥をかくことを極端に嫌う。
それ以上にやる前から失敗した時のことばかり考えて、やる前に諦めてしまう人が多いようにも思う。僕に言わせれば、自分の価値観で生きるよりも『世間の価値観に合わせて生きている人』が、圧倒的に多いという印象だ。
そんなのつまらない。これが個人的な意見だ。
なぜなら、その人物が何者であるかを決めるのは決してその人の才能ではなく、その人がする『人生の選択』で決まるからだ。
これは事実だし、アートの世界には常識なんて概念はいらない。
自分が心の底からやりたいと思うのに失敗を怖れてやらないという選択をするなら、失敗してもいいからアクションする勇気を持つことの方が、何倍も大事なことだと思う。
成功と失敗の意味
世間では、成功と失敗が真逆の意味だと思っている人が多いかも知れないけど、どちらも『アクションを起こした結果』という意味では、全く同じことだ。
最大の失敗は、やりたいと心では思っているのにやらない、アクションを起こさない、何もしないでやる前から諦めてしまうということだろう。
僕たちの住む地球という星は、アクションを起こさなければ、少なくとも何も変化は起こらないし、自分の向かって行きたい目標や獲得したいゴールへ辿り着くのは大変難しい。
アクションしなければ、成功も失敗もない。なんの変化も人生には起こらない。
それにアクションを起こした時点の結果で成功か失敗かという、表面的な結果に一喜一憂することはあまり意味がないと思う。『人間万事塞翁が馬』という中国の故事のとおり、振り返れば過去の失敗が素晴らしい経験や判断だった、なんてことは人生にはよくあることだ。
あのスティーブ・ジョブスも大学を中退するという決断を下した時、当時は相当恐怖を感じたらしいが、のちに振り返ってみると『大学をドロップアウトすると決めたことが、人生で最高の決断の一つだった』と後に語っている。
僕がよく言うのは、家と学校、また職場に行くのに毎日同じ道を通って往復しても、あなたの出会いたい『運命の人』には決して出会わない、ってことだ。
あなたの人生の主役は、あなた自身だ。
他人はどんな手を使っても容易には変えられないけど、あなた自身の状況は変えようと思えば簡単に変えられる。それも、今、すぐにだ。
選択と決断、そして後は、アクションしてみる。
シンプルな思考が結局は一番いい結果を生み出すことが多い。それは個人的な経験や人生を振り返ってみても、まさにビンゴだと思う。
さらに付け加えるなら、世界で成功を収めている人たちは、世界で最も数多く失敗した人たちだ、ということにほとんどの人は気づかない。
彼、彼女らは、何度も何度もアクションをしたから数多くの失敗をしたのだ。ただ、失敗を単なるフィードバックと解釈して前向きに捉えて改善し、また更にチャレンジする勇気を持った人、最後まで諦めない人が何かしら大きなものをつかんだ人の共通点だと思う。
失敗を必要以上に恐れて行動しないことこそが、人生をつまらなくする最大のリスクだと思う。
ゴールを狙ってシュートを打たないサッカー選手は、決してゴールを取れないし、ヒーローになることもないだろう。簡単な話だ。
人生初のワークショップ体験
映画監督Xさんのワークショップは、2日間で構成されていた。
1日目は、参加者の自己紹介やアイスブレイク的ないくつかのゲームをやって緊張をほどき、その後は、映画の歴史や演出についての話。午後からは、参加者に事前に渡された短編映画の脚本を監督Xさんの前で演じる。
2日目は、4人で1チームを組んで与えられたテーマと制約を元に自分たちで独自のストーリーを作り、それを実際に演じ、またそれを別チームの希望者が実際にカメラを使って撮影カメラマンをやったり、演出をしてみたり。
最後にはそれぞれのチームが演じた、今しがた撮ったばかりの作品をスクリーニングして参加者全員で見た。これで全体のワークショップは終了だ。
なるほど、映画監督のワークショップらしく、ただただ芝居を演じてみるだけではなく、カメラで撮影する、演出する・されるという実際の現場に近い状況を作り出すことで、映画とは、撮影とは、カメラの前で演じるとはどういうことなのかを身体で感じ、考える学びの場。
それが今回のワークショップの趣旨なんだと理解した。
午後になり、最初は事前に与えられていたスクリプトの本読みを何度かしてから、その後、立ち稽古が始まった。
参加者は若い俳優と女優ばかりで中年男性は僕一人だけだったけど、主催者側は僕を役者として扱ってくれたし、みんなに本当は監督なんだということも言わないで内緒にしてくれた。
演じた脚本のストーリーは、二股をかけていた男を挟んで2人の女が詰め寄る三角関係の修羅場シーンだ。
参加者全員が同じ脚本を使ってそれぞれ演じるので、選ばれる人の組み合わせによって芝居の内容やニュアンスが微妙に変わるのは当然とは言え、やはり面白いなと思った。
芝居は、その人のキャラクターが色濃く反映されるのだ。
参加した全員がしっかり台詞を覚えてくるようにと事前に伝えられていたからか、みんなしっかりと台詞を覚えてワークショップには参加していた。
それぞれの俳優たちの芝居を見ながら僕が個人的にずっと考えていたのは、前回の記事でも書いたように、
ということだ。
僕はそれが知りたかったし、参加した役者たち本人の口から直接話を聞いてみたかった。
彼、彼女たちは、現場で演じる前に、どんなアプローチをしてるんだろうか?
日本とハリウッドの俳優の違いってなんだろう?
さて、急だけど、ここから一気に2020年にまで時計を進めてみよう。
僕がLA、ハリウッドにあるイヴァナチャバック・スタジオで、イヴァナの指導するマスタークラスを見学した時の話を少ししようと思う。
イヴァナチャバック・スタジオには俳優の経歴や実力によって
- ビギナークラス
- アドバンスクラス
- マスタークラス
という3つのクラスに分かれている。
イヴァナはマスタークラスだけを担当しており、毎週火曜、水曜、木曜の夜がマスタークラスが開かれる日になっている。
もうお判りだと思うが、マスタークラスはイヴァナ・スタジオで最上級の実力を持つ俳優が参加するクラスで、次のハリウッドスター候補生たちが毎週のように凌ぎを削って演技を磨いている場所だ。
また俳優であれば誰でもマスタークラスに参加できるわけではなく、イヴァナにその実力を認められて初めてこのクラスに参加を許される。
中にはビギナーから初め、何年も掛かってようやくマスタークラスに辿りついた人もいると聞く。なにしろマスタークラスでイヴァナチャバックの直接指導を受けたいがために、世界各国からこのイヴァナスタジオへ俳優たちが集まってくるのだから、かなり敷居が高い難関なのだ。
そのクラスを見学すると、ハリウッドで活躍するような俳優の芝居のレベル、世界的なスタンダードな芝居のレベルとは、どんなものなのかを肌感覚で感じ取ることができる。
中には、
なんて思うような素晴らしい俳優の演技も、僕は何度もスタジオの最前列でイヴァナの真横に座って目撃した。
ハリウッドで役を勝ち取る、またハリウッドスターになるというのは、そうそう容易いことじゃないと実感できたのは大変大きな収穫だったし、何よりも彼たち、彼女たちは本当に勉強熱心だと思う。
イヴァナチャバックのテクニックをマスターして役を勝ち取るために、できる限りの準備をしてクラスに望んでいるからこそ、これだけのいい芝居ができるのだろう。
さて、
- あなたにも、世界の俳優と遜色ない芝居はできる
- その才能も、もうすでに備わっている
これは事実です。
ただ、それを生かすかどうかは、あとは、あなたの努力次第。
どの世界でも、人を魅了し感動させることのできるアーティストは、いつも誰よりも勉強熱心で探究心がお旺盛だ。怠け者は、いくら見かけが良くても、本当の成功を手に入れることはできない。
そうイヴァナも常々言っている。
さて、再び2017年のワークショップへ時計を戻します。
役者として映画監督Xさんのワークショップに参加した僕は、参加した役者たちにどんな準備をしてきたのか?とタイミングをみて質問してみた。
すると、話をした全員が、
- ただただ台詞を覚えてきただけだ
と答えたので、期待していた僕は肩透かしをくらった気分だった。
つまり、演じる役のバックボーンも状況の解釈も独自のアイデアも考えず、できるだけ何を言われても対応できるよう、真っさらな状況で参加したという答えは共通していた。
僕は監督・演出家なので、脚本を読めばアレコレと考えるのが癖だし、役者初体験だったけど自分なりの準備をして臨んだ。けれど、彼、彼女たちは、むしろ自分なりの解釈や考えは一切排除してワークショップに臨んだようだった。
反射的にそう思った反面、これは、もう日本という国の業界システム自体に原因があるんだろうとも感じた。
日本の現場では、監督や演出家がアレやコレやと細かい注文を出し、役者は余計なプランを持って現場に参加すると余計に混乱することが多いのも、そういう役者体質を生み出す原因かもしれない。
それに、そもそも小さな役を貰った無名の役者たちは、監督やプロデューサーと作品や役について話をする時間さえないのが実情だろう。
ある役者と飲みながら話した時にも、そういう悩みに関して何度も聞いたことがあるし、監督としては耳の痛い意見だった。
ただ、もしそうだとしても、僕はやはり役者としては準備不足だと思う。
それに、現状に不満があるなら、みんなでその環境や認識を変えていきましょう、と僕は強く言いたい。
日本の若手俳優たちとハリウッドで見た俳優たちの違いを一つだけ言えば、彼らは貪欲に日々学び続けて実践し努力し続けているし、またそういう場所や仲間を持っているということだ。
そんな場所を、僕も遠くない将来、日本に作りたいと思う。
でも、いくら俳優たちだけが大きな努力をしてもシステムは何も変わらないだろうし、業界全体の、スタッフも含めた認識や体質を変えていくことが必要不可欠だろうな、というのが僕個人の意見だ。
日本にも素晴らしい俳優のみならず、優秀なスタッフも大勢いると心から僕は思っています。
だから閉塞した現状を変えていく。そんな強い信念を持った人たちと繋がり、よりいい環境を作ることも、僕がハリウッドまで行って認定コーチ資格を取って帰ってきたひとつの大きな理由だと付け加えておきます。
最後に、僕のとても大好きで共感できるイヴァナチャバックの言葉を、あなたに送ります。
世界を今よりずっと良いものにするには、あなたの力が必要だということを是非とも覚えておいてほしいと思っています。
そう。今、この記事を読んでいる、あなたの力です。