2019年2月2日、3日に行われたイヴァナチャバック来日の東京ワークショップ。開催された会場は、意外にも、永田町にある自民党会館の大ホール

イヴァナが2015年に初来日して以来、4回目のワークショップになるが、これまで、いずれもこの会場でワークショップが開催されてきたらしい。

どうして自民党会館でワークショップ開催になったのか不思議だったけど、縁があったんだろう。イヴァナ本人もこのホールが気に入っていると、後に白石哲也(認定コーチ&同時通訳)から直接話を聞いた。

映画や演劇とは何のゆかりもない政治政党のホール。このミスマッチがなんだか面白くて、ますます期待が大きく膨らむのを僕は感じていた。

会場を見渡せば、壁面には歴代自民党総裁や総理大臣経験者たちの自画像がずらりと会場を取り囲んでステージを凝視している。

まあ、政治家もタヌキやキツネばかりだから、まんざら「演じること」とは無縁ではないなとも思うし、『政治家も役者といえば役者だ』と考えると、ちょっと笑える。まあ中には、時折笑えない発言をする大根役者もいるにはいるけれど。

ただし、名だたる政治家たちが総会で党員たちに熱を込めて檄を飛ばしてきただろうそのステージは、ワークショプの2日間だけは、イヴァナチャバックの厳しい指導を受ける、俳優陣たちにとっては一種の『戦場』になる。

どの総理大臣たちの絵画の視線より、イヴァナの視線、また150人を超える見学者たちの視線こそが、俳優陣にとって一番気になることだろう。

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演者たちの覚悟を感じる

ワークショップで演者となるプレーヤーたちは、イヴァナチャバックから多くのものを獲得し、自身のキャリアアップをしようと、出来る限りの準備(リハーサル)をしてきた精鋭の16名だ。

中には名前を聞けば「ああ、あの女優さん!」とわかる人もその16名の中に名前があった。彼女とは2017年に撮影した僕の自主映画でご一緒した。やはり彼女は、常に演者として常に向上しようとしているんだな、と感じた。

見学者の僕は、ステージから4列目にワークショプの席を確保していた。

出来るだけイヴァナチャバックの指導を間近で見て何かを感じ取りたいと思ったので、前席指定の席を手に入れた。

前席指定席は、通常の自由席よりも値段設定の高い席だったけど、開催2日前に申し込んだにも拘らず空いていたのはラッキーだったし、それよりも、なぜ多くの人が出来るだけ前の席でワークショップを受けないのかが、僕には不思議だった。

僕のすぐ前の2列目、3列目の席には、今回ステージに登壇する16名のプレイヤーたちが緊張して無言で座っている背中がある。彼、彼女たちも、自分の演じる時以外は他のペアの芝居やイヴァナの指導を聞き、メソッドの本質を感じ取じとるのも重要なトレーニングの一環になっている。

そして、最前列には、イヴァナチャバックと同時通訳をする認定コーチの白石哲也、同じく認定コーチの高橋一哲、フィリピンとインドネシアの認定コーチも、イヴァナに会うためにわざわざ来日して同席していた。

さて、いよいよ、イヴァナチャバックの東京WSの始まりだ。

目の前に座るプレイヤーたちの緊張している背中ごしのイヴァナチャバックを、僕は瞬きもせずに必死に見つめていた。

ワークショップの幕が上がる

イヴァナチャバックのWSは、演者となる俳優(プレイヤー)が16名参加できることになっている。

このステージに立ち、イヴァナの直接指導を日本にいながら受けられる年に1度だけの貴重な機会だけに、年々、参加希望者は増えている。なので、もちろん16名は『選ばれし俳優』だ。

16名の俳優たちは、2人一組でペア(シーンパートナー)を組み、計8チームに振り分けられる。そして、イヴァナ本人が本人の今までの経歴とヘッドショット(顔写真)を見て、インスピレーションで選んだ映画の1シーンを与えられ演じてみせるわけだ。

1日目は、本番に向け何時間もリハーサルを繰り返し準備してきた8チームの俳優たちが、それぞれ与えられたシーンをイヴァナ・チャバックと見学者たち(150名程度)の前で1度だけ演じてみせる。

そして、その演技に対してイヴァナチャバックからコーチングを受け、問題点や課題、また修正点を与えられ、それぞれが再びその課題に向き合った稽古をして翌日2日目の舞台へ臨む。

これが、2日間のWSの大まかな流れだ。

もうひとつ大事なことだけど、ワークショップ開催にあたり、会場に参加する全員が誓約書にサインをしなくてはならない。

イヴァナのメソッドは、プレイヤーそれぞれの潜在意識に眠った過去のトラウマや心の傷にまで踏み込むため、その体験を告白する俳優たちが安心して演じられる場でなくてはならないとの配慮だ。

avatar
Ivana Chubbuck
この会場で聞いたことは決して誰にも話さないでほしいと思います。あなたたちと私は、今、家族です。この約束を守れる人は”Ido(出来ます)”と言って右手を掲げて誓ってほしい

多くの見学者の前で安心してプレイヤー達が自分の過去を開示するには、何よりも安心が必要だ。これはコーチングの秘匿義務と同じ。安心安全は何より重要なので、僕にはこの意図がすんなりと理解できた。

そして会場の参加者全員が、『Ido』と答えた。

さあ、いよいよイヴァナチャバックの東京WSの始まりだ。

この2日間、俳優たちのどんな演技や変化、イヴァナチャバックのアクティングコーチとしての振る舞いを見れるのか、僕はまるで自分がプレイヤーであるかのようなワクワク感を感じ始めていた。