イヴァナチャバックの東京ワークショップ2019が終わった後、ようやく僕は、彼女の書いた「イヴァナチャバックの演技術」という著書を真剣に読み始めた。
その内容には共感することも多く、ぐいぐいと引き込まれた。特にハリウッド俳優たちのエピソードを実例と共に語る部分は興味深かった。
本来ならこの本の内容をしっかりと読み込み、彼女のメソッドを構築する12ステップを理解してワークショップに参加していたかった。そうすれば、また別の視点や気づき、アイデアが獲得できていたかもしれないが、あとの祭りだ。
イヴァナはすでに帰国して、1年後の2020年に再来日するまでその機会を得ることは出来ない。
とすれば、ワークショップ終わりで主催者がアナウンスしたLAツアーなるものに申し込むという手もあったが、残念ながら既に決まっている個人的なスケジュールは全く動かせそうにない。
2月後半のスケジュールを2週間も急に白紙にするなんて到底無理だ。残念だが、今回のLA行きは諦めるほかなかった。
また彼女の書籍の内容に関しても、読めば読む程どう解釈していいのか?という疑問点もどんどんと出てきた。
ならば、日本にいながらにしてこのメソッドについて学びたいが、一体誰に学べばいいだろうか?
僕は考え始めた。
イヴァナチャバック来日の最大の功労者
ネットを検索して色々とイヴァナに関する情報を集めると、日本にはイヴァナチャバック認定のアクティングコーチが3人いることがわかった。
そしてその一人、ワークショップ主催で同時通訳者でもあった白石哲也に僕は興味を持った。
なぜなら、白石哲也こそが『イヴァナチャバックを日本に連れてきた人物』だからだ。彼は2015年にイヴァナチャバック・セミナーという形で彼女の初来日を実現させている。
さらにこれは、後に白石哲也本人に聞いたことだが、今では世界各国で開催されているイヴァナチャバック・ワークショップの開催条件は、イヴァナの著書「The Power of the Actor」という英語原作の、各国での翻訳本が出版されていることらしい。
メソッドの内容や体系を自国の翻訳本で深く理解した上で参加しなければ、ワークショップ自体が実りあるものにならないとイヴァナが考えているからだろうと思う。
つまり、日本語版「イヴァナチャバックの演技術」という翻訳本を書籍化したからこそ、イヴァナチャバックは毎年来日し、東京ワークショップを開催することにも繋がっているのだ。
余談になるけれど、アジアで言えば、中国語版は簡易中国語と標準語の2つのバージョンが出ているが、複数候補があった韓国語版は今だに翻訳本出版にまで至っていない。
つまり、どれだけ韓国の俳優たちが熱望しようとも、お隣、韓国では翻訳本が出ていないので、イヴァナチャバック・ワークショップが開催されることはないのだ。
何事においても最初に新規プロジェクトを立ち上げるには、とても大きな労力とハードワーク、そして強い信念こそが必要だ。
イヴァナの著書「The Power of the Actor」の日本語版を出版するために翻訳作業に時間を割き、出版してくれる出版社を走り回って探し出したその熱意は、想像するだけでも大変な作業だったと思う。
だから僕は、イヴァナを日本にまで連れてきた白石哲也に学ぼうと決めた。
そして折良く、東京ワークショップから2週間ほど先の2019年2月19日には、イヴァナチャバックの12ステップを学ぶ座学の1日講座を白石哲也が開くという情報を入手したので、僕は躊躇なく参加を決めた。
11:00開始。17:00までの6時間で、駆け足だが12ステップの要点や解釈について学べる1日の講座だった。渋谷のワークショップ会場には、約15名ほどの男女の参加者がいたと記憶している。
参加者の大半は役者で、中には舞台の演出家や声優だという人も参加していた。みんな一様に独自に本を読んだだけでは理解できない部分や疑問点があるようだったが、やはり6時間という短い時間では十分な理解にまで至らなかったというのが、受講した一人である僕の本音だ。
これは今後、僕自身が俳優や制作者たちと関わるレッスンやワークショップなどを設ける際にも、しっかりと意識して考えなければならない部分だと思う。
自ら実際に体験しそれを感じられたという意味では、認定コーチになった僕にとっては、とても有意義な時間だったと振り返ってみると思う。
何事にも無駄はない。
強い信念を持ってアクションを起こせば、必ず将来、全部が意外な形で結びついてくる。本当に僕が実感していることだ。
Connecting dots
まさに、スタンフィード大学の卒業式でスティーブ・ジョブスがスピーチで語っていたことだ。
自分の叶えたい目標を強く信じてアクションし続ければ、一見、何の関係もないような点と点が、振り返れば必ず一つの線になる。
是非、覚えておいてほしい。
だけど、どうして監督である僕が、今更ながらイヴァナチャバックのテクニックを学びに行こうと考えたのか、そのあたりの話を少し振り返っておこうと思う。
新しい可能性への道を探る
僕はイヴァナチャバックのメソッドを学ぶ以前から、人間というものをもっと深く知りたいという強い欲求を持ち、心理カウンセラーの資格を取ったり、コーチングを学び続けていた。
脳の仕組みや心理学という科学を学ぶことで、より深い人間洞察や描写ができる可能性が深まり、もっといい芝居、いい作品が撮れる監督になることに繋がるのではないかと考えていたからだった。
そう言えば、少し脇道にそれるが今、ふと思い出したことがある。
2017年のことだ。
僕はある若手映画監督の2日間のワークショプに『役者として』参加したことがある。
名前を言えば映画ファンなら必ず知っている実力派若手監督のワークショップだった。しかもワークショップというものを初体験した、記念すべきワークショップになった。
最初のきっかけは、阿佐ヶ谷のユジクという映画館で彼の映画を見たことだった。
とても面白く心に響いた作品だったので帰りにパンフレットを買い求めたら、なんとパンフレットの表紙には、マジックで書かれた監督直筆のサインがあった。
その手書きサインを見た途端、急に今見たばかりの映画を撮ったその若手映画監督の「人としての存在」が鮮明に浮かび上がってきたように僕は感じた。
不思議だけど、手書き文字というのはタイプで打たれた文字にはない「体温のようなもの」がやはりあるのだと思う。
そして、こう思ったのだ。
そして、映画を見て1ヶ月ほど経ったある日、その監督のワークショップが開かれるという情報を、誰かが投げたFacebookの投稿で偶然知った。
そしてこれも奇妙な符号だけど、イヴァナチャバックのワークショップの時と同様に、そのワークショップ情報を知ったのも開催2日前のこと。しかも、そのワークショップの翌日が僕の誕生日だった。
僕は、何か目に見えないものに導かれるように参加することを決めたが、一つ問題がある。
ワークショップの対象者は『役者限定』
僕は監督だから、参加資格はないのかもしれない・・・。
身勝手な話だけど、このワークショップに参加することは、もうすでに僕の中では完全に決めてしまったのだ。必ず行かなくてはならない。僕は監督に会って話をしたいのだ。取るべき方法はただ一つだ。
熱意を伝える。
今できることはこれしかない。
僕は主催側サイドに『僕は役者ではなく監督だけど、いかに今まで役者をやりたかったのか』という文章を綴り、アイフォンで撮影した自撮りの『なんちゃってプロフィール写真』と共に送信することに決めた。
何しろ2日前だ。スピード感を持って急がなくてはならない。
そして、もし、万が一、役者として参加できないのであれば、見学者でもいいから参加したいという文章も付け加えることも忘れなかった。
その結果、先方から「是非、お越しください」という返信メールとワークショップで使う短編の脚本が添付で送られてきた。
諦めたらそこで終わる。
何事もアクションすることに意味があるのだ。
僕は、何が何でもこの若手映画監督に会って話をしてみたかった。それが実現したのは、僕の強い思いがあったからだとコーチング理論を学んだ今なら断言できる。
本当に心の底から切実に強烈に願ったことは、必ず実現するのだ。
僕が役者として参加してまで知りたかったこと
若手映画監督(仮にXさん)のワークショップに役者として参加しようと思ったのには、いくつか僕なりの理由があった。
- まず、監督Xさんと彼の撮った映画について話してみたかったこと
- 開催するワークショップの内容や進行過程を知りたかったこと
- 監督の演技指導(演出)を、役者として肌感覚で体験したかったこと
そして、これが一番興味がそそられる目的だけど、
- 参加する役者が、普段どんな準備をして撮影現場に参加しているのか
それを役者たち本人の口から僕は直接聞いてみたかった。
いわゆる「役作り」というものを彼、彼女たちはどんな風にして現場に臨むのか。どんなアプローチをしているのかを知りたかったのだ。
イヴァナチャバックの話からずいぶん脱線して、急に僕が役者としてとある映画監督のワークショップに参加した時の話になったが、実はこれも振り返れば、すべて繋がっている。
少し長くなったので、この続きは改めて。