前回の続きです。今回は、僕がイヴァナ・テクニックを座学4回講座で学び始めた頃のことについて。
記事を読んでいるあなたは、既に「イヴァナチャバックの演技術」の内容を知っているという前提で、テクニックについても少しだけ触れたいと思います。
それにしても日本では、俳優のみならず映画や演劇などの制作スタッフ、関係者も入れると、どれくらいの人が『メソッド演技(Method acting)』というものに関して興味があるんでしょう?
リアルで自然な演技を導く、と一般的には理解されているメソッド演技法ですが、一方で様々な批判も存在していることも承知しています。
ただ、僕個人の考えとしては、
人間の心の働きや脳の仕組みについて知るきっかけになるし、演じるという行為を通して、人間という存在について知ることは、とても有意義なことだと思っています。
メソッド演技法の系譜
メソッド演技と一口に言っても、僕の学んだイヴァナチャバック・メソッドだけでなく、様々なメソッドがありますが、その源流を辿るとスタニスラフスキー・システムに行き着きます。
そして、ロシア演劇でスタニスラフスキーの教えを受け俳優や演出家として活躍した、リチャード・ボレスラフスキーとマリヤ・ウスペンスカヤが、1920年代(1923年〜1926年)に米国へ亡命した後、「アメリカ実験室劇場」を主宰し、それがきっかけとなりアメリカ演劇界に大きな影響を与えたことが、その後のメソッド演技法誕生につながっています。
スタニスラフスキー・システムは、今から100年以上も前に提唱された演劇理論ですから、時代や場所、生活様式の変化などの様々な複合的要素が加わり、現在に至るまでアップグレードされてきたし、これからも変化していく筈です。
僕が師事し、認定資格を取ったイヴァナチャバックの演技術も、もちろんこの偉大な礎であるスタニスラフスキー・システムの延長線上に存在しています。
そう考えると実に感慨深いというか、演技という芸術を探求してきた先人たちと、時代を超えて交歓しているような気にもなります。
それくらい「演技」というものは奥が深い芸術だし、国や人種の別なく人々が魅了され続けているという証拠。いつの時代もアーティストという存在は、非常に探究心が強い存在だと言えるかも知れません。
生前、スタニスラフスキーは、
そう話していたそうです。
誰もが『より、いい芝居』を演じたい、『より、いい作品』を創りたい。
シンプルですが、
もっと人間というものを知りたい
それがアーティストという存在の本質なんだと思います。
- アクターズ・スタジオ(リー・ストラスバーグ)
- ステラ・アドラー芸術学校(ステラ・アドラー)
- ネイバーフッド・プレイハウス演劇学校(サンフォード・マイズナー)
- HB STUDIO(ハーバート・バーコフ)ウタ・ハーゲン
演じるって、なんだろう?
イヴァナの著書「イヴァナチャバックの演技術」には、その冒頭に印象的な言葉があります。
Acting is a complex and elusive art to define.
イヴァナチャバックは、その書籍の冒頭で、
そう言っているわけです。
そういえば、ふと思い出しましたが、江戸時代の浄瑠璃や歌舞伎作者の近松門左衛門は、「芝居は皮と肉の間にある」という有名な言葉を残していますし、このあたりは洋の東西に関係なく、芝居、演技というものを、的確な言葉でうまく捉えるのは大変難しい。
どうしてでしょう?
イヴァナの著書から冒頭の文章の続きを、少し引用してみましょう。
なぜ、同じ芝居で、同じキャラクターを演じ、同じ台詞を読んでいても、ある俳優の演技には惹きつけられるのに、別の俳優の演技は退屈で面白みがないと感じられるのでしょうか?
脚本や美しい言葉使い、フレーズの巧みな言い回しだけの問題だというのなら、私たちは、読書してさえいれば良いのです。しかし、ページの上の言葉を無気力に読んでもだめなのです。
それを演じ、生命を吹き込むのが俳優なのです。
書籍「イヴァナチャバックの演技術」
イヴァナチャバックの12ステップ
演技の違い。いい芝居、良くない芝居、うまい役者、下手な役者というのは、瞬時に見抜く能力が、私たちには備わっています。
ですよね?
じゃあ、そんな能力を持ったあなたが「いい演技や芝居ができますか?」と質問されたとしたら、あなたはどう答えるでしょう?
演じることは誰にでもできます。簡単なことです。
ただ、人々を魅了し感動させる演技が簡単にできるかと言えば、そうではない。生まれ持った才能もあるかも知れませんが、トレーニングが必要なのは言うまでもありません。
そのために人間を知り、演技というものをより効果的に導き出すために体系化したのが、メソッド演技法なのだと思います。
変な話ですが、人は演技は歩くことと同じで、普通の人間なら誰もが自然にできる、トレーニングなどしなくても演じることが出来ると考えています。
でも、歩くことを科学的に突き詰めれば「効果的な歩き」があるように、演技もトレーニング次第で「効果的な演技」が可能になる。そのための方法論が、メソッドと呼ばれる演技法だということです。
イヴァナチャバックのテクニックは、12個のステップに分かれています。
01:全体の目的
02:シーンの目的
03:障害
04:代替者
05:インナー・オブジェクト
06:ビートをアクション
07:MB(Moment before)
08:場所と第4の壁
09:ドゥーイング
10:インナーモノローグ
11:過去の状況
12:手放す
映画が、シーンがいくつも重なり合って進み映画全体を構成するように、あなたが演じるキャラクターが、映画全体を通して得たい「全体の目的」を勝ち取るまでの旅路も描いています。
そしてそのキャラクターが1つ1つの「シーンの目的」を効果的に演じるためのメソッドが、このイヴァナチャバック・テクニックの12のステップになります。
僕が、座学4回講座で学び始めてまず大きく共感したのが、ステップ1と2の「キャラクターの目的を設定する」という部分でした。
当たり前のことのようですが、意外と事実を認識していない人も多いようにも思います。
あなたの目的、辿り着きたいゴールが明確であればあるほど、その人の人生はダイナミックな魅力あるものになるというのは事実です。
まあ、この話は別の機会にお話したいと思います。
とにかく、
キャラクターの旅路を、俳優自身のパーソナルな物語と重ねあわせ、よりダイナミックで魅力的な演技を引き出すツール。
それが、イヴァナチャバックのメソッドです。
ステップそれぞれの項目についての詳しい説明については、また別の記事でお伝えしたいと思います。
僕も今後、生徒を募集してレッスンを設けていくつもりなので、実践を通して学びたい人には、その時にお話できればと思います。
メソッド演技法より日本人俳優に必要だとボク個人が思うこと
さて、最後になりますが、僕が座学4回講座を通して感じたことです。
記事タイトルにもしましたが、メソッド演技法習得よりも俳優に必要なこと、多くの俳優に足りていないな、と思うことについてお話しようと思います。
それはずばり、
自分自身に対する評価(自己評価・自己イメージ)を高めることが何よりも重要だと思います。
この、自己イメージがどういう状況かで、俳優それぞれによって、手に入れられる結果に大きく作用すると僕は考えています。
長くなるので、詳細はこれもまた別の記事にしようと思いますが、そう言えば、2020年、LAでいい話を聞いたことを思い出しましたのでご紹介したいと思います。
それは、イヴァナチャバック・スタジオのクリスというアクティングコーチが言っていたことです。
という話をしてくれました。
また、別のコーチ、フランツの言葉もそれを裏付ける話でした。
アメリカは日本と違いオーディション・システムで映画の役を勝ち取るのですが、オーディションを勝ち取るのは、一概に演技がうまい人とは決して言い切れないという内容でした。
フランツは、こう言いました。
少しくらい演技技術が劣っていようが、そんな風に心で思える俳優が、意外と役を勝ち取っているように思う。
そういう話でした。その時、僕は確信しました。自分の仮説が正しいと証明されたようにも感じていました。
今後、僕が設けるクラスではそのあたりのこと、自己イメージを高くするということもレッスンに組み込もうと思っていますので、ぜひ楽しみに待っていてください。
では、今日はこのあたりで。
次回は、僕の「役者修行」について書いてみようかなと思っています。